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Uncertain Odyssey


世界叙情記
by crescentadv
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殉教の遠い記憶

見渡す限りの赤茶けた大地に一本の舗装道路が通っている。この道は、そのままバグダードまで続いていて、ずっと南へも続いている。周囲には、小さな集落と畑、ところどころにナツメヤシの木が見える。静かな午後のひととき。ほとんど車も通らないそんな中を、遠くから歩いてくる人たちがいた。多くは数人くらいのグループで歩き、そんな小さな集団が、遙か遠くまで続いている。黒装束の女性たちの姿も少なくない。
 彼ら(彼女たち)は、遠くから(おそらくバグダード辺りから)歩いてきたのだ。数十キロの道のりを、暑い日を浴びながら歩き続ける、一路カルバラを目指して。ほとんど1200年も前になくなったアル・フセインは、偉大な殉教者として、また悲劇の人として、多くのシーア・ムスリムに慕われ、彼の死を思うときに人々は悲嘆に暮れる。彼が亡くなった日(アシューラー)の一週間ほど前から、人々はカルバラを目指して歩き、カルバラで悲劇を追体験する。
 この行事と今のイラクの状況を重ね合わせるとき、1000年以上の時を超えて、当時の人々の姿が脳裏を過ぎり、時間を超越した何かを感じるのは、あながち気のせいではない。街道沿いに翻る赤い旗が夕日に映えて、その赤が目に染み入る。アル・フセインとその一族郎党の血が大地に拡がり、視界全体を覆い尽くしていくような錯覚に陥る。その前を、チャドル姿の女性たちが、静かに何か祈りの言葉を呟きながら、通り過ぎていった。
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# by crescentadv | 2005-11-15 09:50 | イラク